飛び込め!リゾートバイト!

リゾートバイト。それは誰もが憧れ、でもどこか踏み出せない知る人ぞ知るバイト。そんなリゾートバイトにスキル無し!コミュ力普通!意欲MAX!で飛び込んだ平凡フリーターの体験記。

リゾートバイト体験記1日目

~夜行バス

 前日までの念入りな準備もあって、私の心身には余裕があった。不安はどこかに身を潜め、ただこれからの旅路と行き先に思いを馳せていた。だからだろう。普段は疲れて寝れない夜行バスすら、まるで遊覧船に乗ったかのような気分だった。

 

 季節を考えれば過剰すぎる暖房から解放されたのは朝の7時。名古屋は雨が降っていた。

 

 

 

~バス、~電車

 この行程、移動手段がすべてバスなのはいかがなものか。交通費は抑えられるのだが、さすがに身体に負担を感じはじめていた。名古屋で軽い朝食を済ませ、そのまま慣れぬ都会の交通ターミナルに赴く。

 

 時間にして6時間。外の景色が楽しめたからか、そんなに退屈はしなかった。かなりの時間を寝て過ごしていたような気もするが。目的地に近づくほど、自然が豊かになっていく。名古屋を出たころはビルの森だったが、それが林や森となり、山を抜け。電車に乗り換えた頃には美しい海岸線の広がる海が見えていた。泳ぐこともやることリストに追加せねば。

 

 

 

現地着。最初の挨拶が気恥ずかしい。

 乗物から降り、固まった筋を伸ばす。気持ちがいい。まだ予定時刻には時間があることから、私は付近の土産物屋を見物することにした。どういったものがあるのか興味があったし、何より帰るときに何を買うか早いうちに決めておきたかった。優柔不断だから。

 

 町は少しさびれた港町といった印象だが、こじんまりと観光地化されていることでシャッター街とはなっていない様子。この雰囲気、きっと好きな人もいるんじゃないだろうか。喧噪はなく、ただおだやかな時間が流れている。そんな時間に飲まれ、気付いたら少し時間をオーバーしていた。慌てて派遣先のホテルに走る。

 

 このホテル、陸から少し離れた小島に建っている。だから行き来はもっぱら船なのだが、心配性な私は従業員と宿泊客とでは手段が分けられているのではないか?と気になって仕方がない。重ねてコミュ力は低い。聞けばいいものを、桟橋の前で少しまごついてしまった。船が2度ほど往復したときに、意を決して船頭に挨拶をした。

 

「今日から勤務させていただきます、ぶどうマンです。よろしくお願いします。ホテルに行きたいのですが、乗ってもよいですか…?」

 

 若干声がうわずる。顔はきっと真っ赤だろう。日焼けで赤黒くなった肌、恰幅の良い身体。漁師然とした陽気そうな船頭は快くどうぞと言ってくれた。

 

 

 

働いていないのに疲れた初日

 到着するとスーツを着た男性と、制服姿の女性が出迎えてくれた。私にではなく、おそらくお客様相手だ。ただ船には私しか乗っていなかったので誤解が生じる。先ほどのやり取りで少し勇気を持った私は迷いなく挨拶ができた。彼らはフロント勤務。つまりは私が共に働く相手だ。背の高い女性が荷物を持ちますと言ってくれたが、私は客ではないので丁重にお断りした。

 

 フロントにつくと、先ほど出迎えてくれた人とはまた別の職員がカウンターに入っていた。背の小さな女性に人事担当の方を呼んでもらい、ソファで座って待つ。その間、先ほどの背の高い女性が話しかけてきた。名前はSさん。同じ派遣会社で、私よりも二か月先に派遣されているのだとか。ここまでの過程で隠れていた不安が出てきていた私は、彼女の落ち着いた口調と気さくさに安心させられた。

 

 その後、人事を担当する総務課長Nさんと共に施設を回りながら説明を受ける。ホテルはかなり豪華なつくりで、離れ小島に建っていることからも楽園のようだ。もちろん景色もいい。誰もが旅行で思う、非日常へのあこがれ。それがここで働いていたら毎日感じれるのだ。もちろん日々薄れていくものだが、それでも今はこの景色と施設に感動しないわけにはいかなかった。施設の説明を受けたのち、一度総務室へと戻る。そこで2人の女性と会った。軽く挨拶をかわす。1人は30代くらいだろうか?関西弁の強い気の強そうな方だ。もう1人は私とそんなに年は変わらない。身ぎれいで一般的には可愛いとされるような方だった。どうやら彼女たちも今日派遣されてきたリゾートバイトらしい。2人ともフロントではなく、レストラン勤務なのだそう。直接関わることがなさそうで少し残念に思ったが、仕方がない。ともに勤務に関する給与や食事の提供方法、近隣施設の説明を受けたのち、それぞれ寮へと赴いた。

 

 寮はとんでもないところだった。築何十年なんてレベルじゃない。もっと劣化しているだろう。小学校や中学校で林間合宿の寮よりひどいかもしれない。私は整理されていないのは苦手だが、決して潔癖症というわけではない。寮の汚さには面食らったが、前もって担当営業から聞いていたこともあって特に問題だとは思わなかった。部屋には備え付けのテレビとエアコンがあり、住むには困らないだろう。食事もとりあえずは3食提供されるし、全く不安も不満もなくなっていた。荷物を解き、スーツを見るまでは。

 

 長い旅路のせいか、バッグの中でボディソープが暴れていた。大慌てで中を改め、拭いていく。なぜこんないれ方をしたのか。スーツがもっとも被害が大きかった。ゆっくりする間もなく、急いでスーツの洗剤を落とす。だって明日使うから!ある程度落としたところで、まだエアコンを使う季節には早すぎるというのに稼働させる。除湿で明日までに乾けばいいが…順調だと思ったのもつかの間、これまでのことが消し飛ぶくらい不安になってしまう私だった。

 

 そうこうしている間にも時計は20時を示している。明日に響いてはいけないと思い、身体が疲れていることもあって寝ることにした。スーツは明日、出たとこ勝負だ…